大地と静けさに包まれた特別な空間。
ここで、私たちのワインは眠りについています。
藻岩山の斜面に、この場所はひっそりと息づいています。
丘を削り、建物を築き、再び土を戻して、
大地とひとつに溶け合わせたカーヴ。
風景に溶け込みながら、その使命を果たしています。
ここには、風も音も、光さえも届きません。
クーラーによる強制的な冷却は使わず、
冷たい水の放射と自然対流だけで、空気は穏やかに冷やされています。
冷輻射の力は空気だけでなく、瓶の表面、
そしてワインの液体そのものまで温度を行き渡らせ、
12〜14℃前後に保ちます。
これは、冷風に頼るクーラーでは決して実現できない、
熟成のための最良の冷却方法です。
大地そのものがゆっくりと熱を逃がす── その自然の仕組みが、
ワインの眠りを支えているのです。
さらに、この場所にはもうひとつの恵みがあります。
藻岩山頂から流れてきた水は、地下にとどまり、
建物の周囲をしっとりと湿らせています。
その働きが自然に湿度を整え、ワインの眠りを守っているのです。
カーヴには高さと広がりがあり、
空気は層をなしてわずかな温度差を生み出します。
私たちはその違いを読み取り、一本一本のワインにふさわしい“居場所”を与えています。
自然のゆらぎを抑えるのではなく、活かすことこそが真の熟成につながると信じているからです。
建物は厚いコンクリートで造られ、
振動や騒音はもちろん、紫外線さえも遮断。
TCA(トリクロロアニソール)によるブショネの原因となる塩素や
カビ胞子も徹底的に排除されています。
ここには、ワインにとって不要なものはひとつとして存在しません。
そして、カーヴを見守るのは日々ワインと向き合うセラーマスター。
温湿度計の数値だけではなく、空気の香りや雰囲気の微かな違いを
感じ取り、 ボトルの気配に耳を澄ませながら、最良の眠りを整えています。
私たちは、ただ保管しているのではありません。
ワインがもっとも美しいかたちで目を覚ますその日のために。
この安らぎと時間そのものが、ワインの未来を育てているのです。
その頭上、大地を戻したその上では、 エゾシカやエゾリス、
キタキツネが足音もなく歩いていきます。
地下にはワインが眠り、地上には命が息づいている──
大地に抱かれ、静けさに守られたワインたち。
その眠りを見届けるのが、La Cave Aux Trésorsです。